21日目

引っ越しを経験する度に「この街のこと,何も知らなかったな」と思う.商店街にたたずむ和菓子屋がおいしかったり,あてもなく歩いたら近いけれども使わない路線の駅にたどり着いたり.

 

数年前,少し前にたまたま近くを通りかかったから実家(があったところ)を見に行ったら,見慣れた風景にご近所さんがまだ住んでいることがわかった.ついでに,スーパーマーケットに行ったらえらく狭く感じた.子供のころの半分くらいの感覚.大きくなったのだから当然なのだが,なんだか少し哀しかった.

 

アメリカに2度に帰ったときもそう.1度目は,研究者を志す以上はもう遊ぶことはないだろうから,と人生最後の旅行として行った.2度目は,父親の介護だったがこれが最期だろうと思って覚悟して地を後にした.もしかしたら,母親も会えないかもしれない.そうなると帰るところがなくなるが,町はそこにあるからあとはぼくの気持ちの問題.

 

もう帰らないんだろうという気持ちになること自体なんとも詰まる思いだが,次に進むためには必要なできごとなのだろう.何年も同じように生きていたら,前に進む人たちがだんだんまぶしく本来なすべきことを見失う,そんな気がする.