15日目

4月に転職してから,良い具合に研究が進まない.一応断っておくがこれは大変良いことで,思うように進んでいたら何かしらの勘違いもしくは新規性皆無な研究をしていることが多い.

 

化学に限った話だが,おそらく研究には「うまくいかないというチュートリアル」なるものが存在する.合成なら「行くはずの反応が行かない」,「出るはずの条件で単結晶が出ない」,分析なら「S/Nが自分の性格くらい悪い」「スペクトルの線幅がカモシカの脚のよう(お世辞にも細いとは言えない)」,計算なら「投げた瞬間にジョブが止まる」,「明らかに違う構造が我が物顔で吐き出される」,ここら辺は定番だと思う.少し違うが,「保存したデータファイルの名前が意味不明でサルベージできない」も.

 

初めて論文を書くときも似た状況に陥る.一生懸命書いた文章(あるいは章節)がまるごと)消され,「この半年は何だったんだ」となる.とにかく,とにかくうまく行かない.これがイヤなら研究はやめておいた方が良いし,ほどよく楽しめる無神経さを備えているならそこそこ向いている.

 

キャリアの中で研究分野を変えても同じことに苛まれるが,博士号を取って以降ではさほどダメージを受けないと思う(n = 1).「何が起きても博論よりはマシ」という不遜な自信もあったが,「うまく行かなくても大丈夫,本当に良い研究はすぐにはできない」という経験を持っているからだ.もちろんそれが続くと辛いが,そういうときに手を差し伸べてくれる人は,たぶんすごく良い人だ.見ぬ誰かかすでに知る誰かかはまだわからないけれども,叡智という巨人は見えないたくさんの人によって成り立つ.